建築計画説明業務のアレコレ⓶(・お日様が西から昇り東へ沈む・国と地方どちらが上?)

3.太陽が西から昇り、東へ沈むと言い張る近隣さんの話
建築計画の説明では、区条例で冬至日における日影の影響を説明することが決められています。近隣説明資料に建築計画図面などと一緒に時刻日影図を添付して説明しますが、時には個別にご近隣の自宅への影響に対する詳しい説明を求められ、冬至日の時刻日影図だけでなく、春秋分や夏至の時刻日影図、等時間日影図、壁面日影図、1年間を通しての日影の影響を説明するための年間日影グラフなど色々な資料を用いて説明をすることがありました。
この様な時には、個別に近隣さんの自宅へ伺って説明を行いますが、中には日影図の説明の中で、家(観測点)から見て日の昇る方向は西を指し、日が落ちる方向を東だと言い張る近隣に出くわすことがありました。そして言うことは皆さん同じで「1年365日ここに住んで空を見ているのだから私の言うことに間違いはない。この(日影)図面が間違っている」と・・・(日影補償のため無茶を言い出しているのだと思います)
ではこの様な時にはどうしたかというと、客観的なデータが信用出来ないということであれば、これ以上お話しても無駄なので、帰らせていただきますと席を立ちます。すると必死に帰るのを止められました。
また冬至日の日影の説明をすると、何故かどこの近隣さんも同じく「一番日の欲しい冬至の日に太陽が遮られる」という言葉でした。もう一つは、何かあると「不信感を抱いた」という言葉で、この二つの言葉はどこの近隣さんも同じセリフを言うので、どこで習ったのかいまでも不思議に思っています。

※建築基準法第56条2において日影規制が定められています。冬至日の真太陽時による午前8時から午後4時(北海道は午前9時から午後3時)までの間において、平均地盤面から一定の高さ(1.5m、4m、6.5m)における敷地境界線から5m超、10m超の範囲内で一定時間以上の日影を生じさせないことを求めています。
・真太陽時とは時計の標準時と違い、その地域で太陽が真南(南中といいます)にきた時を12時として時刻を表した時間です。
・等時間日影図:午前8時から午後4時(北海道は午前9時から午後3時)までの各時間ごとの日影(時刻日影図)から、ある一つの場所がどのくらいの時間影になっているのかを描いた図面で各時間の影が重なっている部分(8時~10時までの影が重なっている部分は2時間の日影となる)が日影規制時間内に収まっているのかどうかを確認するために、建築確認申請の図面として必要となります。
・年間日影グラフ:ある一点の場所の1年間の日影時間の推移をグラフで表したものです。

4.国は地方自治体の上位組織なのか
国のある施設の建設・管理・運営を行う事業(PFI方式)の渉外業務を担当した時の話です。
発注者(国)へは区の条例に基づき通常通りの近隣対応(説明会、個別説明等)を行うとの説明をしていました。
すると、同じく隣の工区を請負ったSPCの代表会社(某ゼネコン)より連絡があり、発注者から指示があり近隣対応に関する打合せを行いたいとの申し出がありました。訪ねて来られたのは、プロジェクトのトップの方でしたが、先方の渉外担当者は国の施設を造るのに、下位の組織である地方自治体の条例に従って近隣対応を行う必要はないのではないかと言っているとのことでした。

打合せの結果、区条例に則り国の担当者にも発注者として出席をしてもらい合同で近隣住民説明会を行いました。本音の部分は分かりませんが、建前である法律上は国と地方自治体は対等です。もし、この施設の建設に関し、近隣対応を省くようなことをすれば問題が起きていたかもしれません。

地方自治は憲法92条で地方自治の本旨として、住民自治(地域住民自身の責任と判断で団体の運営を行うこと)と団体自治(地域のことは地方公共団体が国の干渉を受けることなく自らの判断と責任の下に地域の実情に沿った行政を行うこと)が保証されており、地方自治法においても国の権限(関与)の強かった機関委任事務は地方自治の本旨にそぐわないとして廃止され、現状は法定受託事務(国の事務の性格が強いもの)と自治事務に整理されています。

※PFI事業: 「PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法です。
※SPC(特別目的会社):「SPC(special purpose company:スペシャル・パーパス・カンパニー)」とは、本件では施設建設に伴う設計・施工・維持管理・運営等を目的して設立した会社です。

SPCについては、民間の大手不動産会社2社が商業ビルの建設、運営を目的として設立した会社の建築物件の渉外担当をしたことがありますが、近隣はこの大手不動産会社が将来の運営に責任を持つことなく、他の企業への売却目的だけで建築計画を進めているのだろうと責められたことがありました。鋭い観察眼だと感心していましたが、この時は想定問答に取り上げなければならい項目だと思いました。